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東京地方裁判所 平成3年(ワ)11866号 判決

主文

一  原告宗教法人幸福の科学は、被告株式会社講談社に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告宗教法人幸福の科学の請求をいずれも棄却する。

三  株式会社講談社のその余の請求を棄却する。

四  原告大川隆法の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、甲事件につき原告宗教法人幸福の科学の、乙事件につきこれを一〇分し、その一を原告宗教法人幸福の科学の、その余を被告株式会社講談社の、丙及び丁事件につき原告大川隆法の各負担とする。

六  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  甲事件

1 被告株式会社講談社(以下「被告講談社」という)、同元木昌彦(以下「被告元木」という)及び同早川和廣(以下「被告早川」という。なお右三名を併せて「被告講談社ら」という)は、各自原告宗教法人幸福の科学(以下「原告幸福の科学」という)に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年八月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告講談社らは原告幸福の科学に対し、週刊雑誌「週刊フライデー」(以下「週刊フライデー」という)二頁に別紙(一)記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で掲載せよ。

二  乙事件

1 原告幸福の科学は被告講談社に対し、二億円及びこれに対する平成三年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 原告幸福の科学は被告講談社に対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞の各全国版朝刊社会面に別紙(二)記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で掲載せよ。

三  丙事件

1 被告講談社らは各自原告大川隆法(以下「原告大川」という)に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成五年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告講談社らは原告大川に対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面に別紙(三)記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で掲載せよ。

四  丁事件

1 被告講談社及び同杉本暁也(以下「被告杉本」という)は各自原告大川に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する平成五年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告講談社及び同杉本は原告大川に対し、別紙(四)記載の同被告本社(東京都文京区音羽二丁目一二番二一号所在)の通用門Bに、別紙(五)記載の看板を設置し、同看板に別紙(六)記載の謝罪広告を同別紙記載の条件で掲載せよ。

第二  事案の概要

本件は、被告講談社の発刊に係る別紙(七)の記事(以下「本件記事」という)をめぐり、原告幸福の科学及び同大川が同被告ほか三名に対し名誉毀損を理由に損害賠償等を求める(甲、丙及び丁事件)のに対し、被告講談社が原告幸福の科学に対し同原告会員ら(以下「会員ら」という)のした電話、ファクシミリ攻撃等の抗議行動等による業務妨害及び名誉毀損等を理由に損害賠償等を求める事案(乙事件)である。

一  争いのない事実

1 当事者の地位

(一) 原告幸福の科学は昭和六一年に原告大川を主宰者として発足し、平成三年三月七日宗教法人として設立された宗教団体である。原告幸福の科学の公表する会員数は同年七月一〇日当時で一五二万七二七八名である。

(二) 原告大川は昭和五六年三月に大学を卒業し、株式会社トーメンに入社したが、昭和六一年七月一五日に同会社を退職した。同原告は、同年一〇月六日東京都杉並区西荻窪に原告幸福の科学の前身である「幸福の科学」事務所を開設し、同年一一月二三日約一〇〇名の聴衆を集めて「幸福の科学発足記念座談会」を開催し、原告幸福の科学の設立とともにその代表役員に就任し、主宰者として君臨している。

(三) 被告講談社は雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社であり、週刊フライデーを発行している。

(四) 被告元木は本件記事が週刊フライデーに掲載された当時の同誌の編集人である。

(五) 被告早川は昭和四六年以来、主として財界関係、宗教問題、教育問題を対象として、執筆活動を続けてきたいわゆるフリージャーナリストであり、本件記事を第一回とする連載企画を執筆するに当たり、各方面に取材を重ねる過程で石原常次(本名。筆名は石原秀次。以下「石原」という)を知り、電話により同人から本件記事の取材を行い、これを執筆した。

(六) 被告杉本は、別紙(八)記載の警告文(以下「本件警告文」という)が掲示された当時の被告講談社の広報室長である。

2 本件記事の執筆、掲載及び販売

被告講談社は、「急膨張するバブル教団幸福の科学大川隆法の野望」という原告幸福の科学の活動の実情を対象とした調査報道の連載企画の第一回として、週刊フライデー平成三年八月二三日・三〇日合併号(盛夏特大号。以下「本件週刊誌」という)に、被告早川が執筆した本件記事を掲載してこれを販売した。

3 原告幸福の科学及び会員らによる抗議行動及びこれに対する被告講談社の対応

(一) 原告幸福の科学の本件記事に対する抗議

原告幸福の科学は、平成三年八月二二日付けで被告講談社代表取締役野間佐和子(以下「野間」という)に対し、本件記事に関する抗議文を送付した。

また、原告幸福の科学の被用者で常務理事を務める白木文雄(以下「白木」という)及び本部指導局長直杉文紀は、同年九月三日午後二時一〇分から午後三時までの間、同原告本部においてマスコミ各社を集めて本件記事に関する記者会見を行った(以下「本件記者会見」という)。

(二) 会員らによる抗議行動

原告幸福の科学の教団職員ら(以下「教団職員ら」という)及び会員らは、平成三年九月二日から六日ころにかけて被告講談社本社及び同被告の全国六箇所の各支社(以下「各支社」という)に対し、本件記事に対する抗議行動として多数回にわたり電話を架け、あるいは抗議文等をファクシミリ等により送付する(以下、「本件電話・ファクシミリ抗議行動」という)とともに、全国各地で抗議集会やデモ行進を行うなどの抗議行動を行った(以下「本件集団抗議行動」といい、右各抗議行進を併せて「本件各抗議行動」という)。

(三) 被告講談社の対応

被告講談社は平成三年九月五日、同被告本社正門玄関前に看板(縦約〇・八メートル、横約二・二メートル。以下「本件看板」という)を設置し、本件警告文を掲示した。

なお、本件各抗議行動は平成三年の出来事であり、以下特記しない限り同年のことである。

二  当事者の主張

(甲事件)

1 原告幸福の科学の主張(請求原因)

(一) 原告幸福の科学の社会的地位

原告幸福の科学は、前記争いのない事実1(二)の経緯で設立され、原告大川が主宰者として、信仰を土台に据えた「正しきこころの探究」という全体目標のもと、「愛」「地」「反省」「発展」という四つの観点から整然と体系づけられた統一性、体系性に特色を有する教義を掲げる宗教団体である。

(二) 本件記事内容

(1) 本件記事には「急膨張するバブル教団幸福の科学大川隆法の野望」という見出しで、次の内容が記載されている。

ア 見出し

「連続追及 急膨張するバブル教団『幸福の科学』大川隆法の野望」「『神』を名のり『ユートピア』をぶち上げて3千億円献金をめざす新興集団の『裏側』」

(以下併せて「本件見出部分」という)

イ 内容その1

「『彼がまだ、商社にいるころでした。ぼくのところに、ノイローゼの相談にきました。『GLAの高橋佳子先生の【真創世記】を読んでいるうちにおかしくなってしまった。自分にはキツネが入っている。どうしたらいいでしょうか』と。分裂症気味で、完全に鬱病状態でした。ノイローゼの人は名前や住所を隠す場合が多いんですが、彼も中川一郎(本名は中川隆)と名のっていました』

その青年が、数年後の現在、霊言の形を借りては、あらゆる宗教家、著名人になりかわり、ついには自分は『仏陀である』と語るのだ。大川氏の変身ぶりの背後に何があったのか。……(中略)……あまりにいかがわしさがつきまとっているとはいえまいか。

『彼がやっていることは金儲けにしか見えないですね。そのために過去の先人たちを利用しているだけのことで、ぼくが見たところ、大川さんには相当な“魔王”がついていますよ』(石原氏)」

(右引用部分はいずれも石原の談話であり、以下併せて「本件石原談話部分等」という)

ウ 内容その2

「だが、大きくなるにつれ、仏陀を名のることに象徴される大川氏のいかがわしさが、組織内でも問題とされつつある。『以前は幸福の科学の集まりでも、会員の質問を受けたんですが、いまは受けつけなくなった。大川隆法に悪意の質問が出ると困るからなんです』」

(以下「本件末尾部分」という)

(2) 本件記事は、原告大川が人生相談の「石原相談室」を開設している石原を訪ねノイローゼの相談をしたという点を中心とするものである。

一般読者は、まず本件見出部分により、原告幸福の科学は、教祖たる原告大川が「神」を名乗り、専ら金儲けを目的とし、いかがわしい策を弄して急膨張した侮蔑すべき成り上がり的存在の宗教集団であって、宗教団体としての実質を伴わない低俗な団体であるという強い否定的印象を受ける。また、本件石原談話部分等では、原告大川が数年前は「分裂症気味で完全に鬱病状態」であったという虚偽の事実を摘示することにより、同原告の精神状態が異常であったこと及び精神病を患っていた者で、いかがわしい存在であるとの印象と同時に、このようないかがわしい御本尊を信仰の対象とする原告幸福の科学自体もいかがわしいとの印象を受ける。さらに、本件末尾部分では、主宰者たる原告大川が「いかがわしい」ゆえに質問も受け付けず、原告幸福の科学の組織内でも問題になっているという虚偽の事実を摘示することにより、同原告内で会員らの中にも原告大川への不信感を抱く者がいるとしてより強固に原告幸福の科学のいかがわしさを印象づけられるものである。

(三) 本件記事による原告幸福の科学の社会的評価の低下

原告幸福の科学の社会的評価は教義内容と教祖たる指導者の全人格とで構成されるものであり、内部的信仰面でも外部的活動面でも同原告の中核的存在である原告大川の社会的評価と不可分一体である。

本件記事の前記各摘示部分はいずれも捏造された虚偽事実の記載である。原告らを誹謗中傷し、一般読者に右(二)に掲記するような印象を与える本件記事は、原告大川の社会的評価を低下させると同時に、同原告を絶対的指導者として信仰の対象としている原告幸福の科学の前記(一)の社会的評価を低下させたことは明らかである。

特に、石原談話部分は原告幸福の科学が設立される前の原告大川に関する個人的情報ではあるが、同原告の精神分裂病の病歴を指摘する内容であって、同原告の人格の崩壊を窺わせるものであるから、同原告の社会的評価を低下させると同時に同原告の社会的評価と不可分一体の関係にある原告幸福の科学の社会的評価をも併せて低下させ、原告大川を信仰の対象としている原告幸福の科学の名誉を毀損するものである。

(四) 損害

被告講談社らが本件週刊誌を数十万部販売し、また、新聞及び電車の吊り広告で本件記事の見出しを大々的に宣伝した結果、原告幸福の科学は教祖がノイローゼに罹患した経歴を有する、いかがわしい団体であるとして社会的評価を著しく低下させられるとともに、布教活動を阻害され、また、同原告を脱会する会員も出るなどした。このように、本件記事により同原告の宗教活動に重大な支障が生じたものであり、その損害を慰藉するには一〇〇〇万円が相当である。

(五) よって、原告幸福の科学は、被告講談社に対しては民法七一五条、七〇九条及び七二三条に基づき、被告元木及び早川に対しては同法七〇九条及び七二三条に基づき、いずれも慰藉料として各自一〇〇〇万円並びにこれに対する不法行為の後である平成三年八月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、同原告の名誉回復措置として請求の趣旨(第一の一2)記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

2 被告講談社らの主張

(一) 請求原因に対する反論

(1) 原告幸福の科学が請求原因(一)記載の内容を教義として掲げていることは認めるが、その評価は争う。

(2) 本件記事内容及び名誉毀損性の欠如

ア 本件記事は原告幸福の科学の宗教活動の実情を対象とした調査報道の連載企画の一部であり、同原告の宗教活動の実情を報道する目的で、事実に即して同原告に批判的論評を加える方法で執筆されている。

<1> 本件見出部分について

本件見出部分は、原告幸福の科学が短期間に急激に会員数を膨張させながらも宗教団体としての実質は希薄であるという事情を踏まえ、同原告のその発展の構造と本質を見極め「バブル教団」と論評したものであり、その余の表現を含め、名誉毀損としての実質的違法性を欠く。

<2> 本件石原談話部分等について

右談話部分は、原告幸福の科学に関係する以前の一時期における原告大川個人の精神状態に関する記載であるにすぎず、原告幸福の科学の団体としての構成、宗教活動とは無関係な内容であって、同原告の社会的評価に何ら影響も与えることのないものである。

仮に、本件石原談話部分等が原告幸福の科学と関連性を有するとしても、右部分は同原告の主宰者を務め「仏陀」とされている原告大川がいかがわしい存在であると摘示したものでも、同原告が精神分裂病に罹患していたという事実やノイローゼであったという事実を摘示したものでもなく、また、読者にそのように印象づけるものでもないから、原告幸福の科学に対して教祖がノイローゼのいかがわしい団体であるとの評価を与えるものではない。

したがって、本件石原談話部分等は原告幸福の科学の社会的評価を低下させるものではない。

<3> 本件末尾部分について

本件末尾部分は、原告幸福の科学内では集会などで同原告及び原告大川への悪意のある質問の回避や質問そのものの制限が行われているという事実を摘示したものであるが、当該集団への悪意のある質問の回避や質問そのものの制限という会合運営方法は世間の集会、会合において往往にしてみられるものであり、社会的にみて不合理なものではなく、むしろ相当なものと考えられているのであるから、本件末尾部分は何ら同原告の社会的評価を低下させるものではない。

また、原告幸福の科学が右のような会合運営方法を採っているという事態をとらえての同原告内では原告大川に不信感を抱く会員が発生しているという指摘自体、原告幸福の科学に対する名誉毀損としての実質的違法性を欠くものである。

<4> 本件記事のその余の部分について

本件記事は原告幸福の科学の宗教活動の実情を対象とした調査報道の連載企画の一部であり、同原告の宗教活動の実情を報道する目的で執筆され、事実に即し原告幸福の科学に批判的論評を加えたものであり、その内容はいずれも不法行為としての名誉毀損の実質的違法性を欠くものである。

(3) 原告幸福の科学と同大川との社会的評価との関係

原告幸福の科学と同大川は法的に別人格であり、原告幸福の科学の社会的評価が同大川のそれと不可分一体ということはあり得ない。

(4) 損害はいずれも否認し争う。

(二) 抗弁(違法性阻却--真実性又は相当性の抗弁)

(1) 公共的関心事

本件記事は、短期間に巨大化した新興宗教団体である原告幸福の科学の動向を分析しその宗教活動の実情を対象としたものであるが、現代社会において強大な社会的権力となりうる契機を有する巨大化した宗教団体の宗教活動及び会員組織の動静は、社会的、文化的に報道意義を有する事項であり、国民の知る権利の対象であり、特に、人及び金を集める宗教団体の社会的特質は現代社会においては新興宗教に顕著であってその動向は注目に値する公共的関心事というべきである。また、いかなる階層の信者が、いかなる宗教団体の働きかけに呼応し、どのような期待を抱いていかなる宗教活動をしているのかという観点もその時代の精神文化を象徴する公共的関心事であるというべきである。

(2) 公益目的

本件記事は、被告講談社らが報道機関としての社会的使命に沿い、公共関心事である原告幸福の科学と会員らの宗教活動の実情を対象とし、これを批判的に分析して現在の新興宗教人気の実相を見極めるとともに、現代の精神文化、社会意識のあり方をも分析し、これを公衆に訴えようとする趣旨に基づいて企画、執筆、公表されたものであり、専ら公益目的に出たものである。

(3) 公正論評としての相当性ないし真実性又は相当性

ア 本件見出部分の公正論評としての相当性

本件見出部分の「バブル教団」との表現は、原告幸福の科学が、公称会員数が激増しながらも宗教団体としての実質が希薄であるということの批判的論評として用いられたものであるが、右論評の対象は同原告の団体としての構造、宗教活動及び運営の実情であって、同原告の宗教活動の特殊性及び右論評の基礎事実(<1>会員数の短期間における激増、<1>平成三年七月時点で同年中に五〇〇万人の、平成四年七月一五日には一〇〇〇万人の会員数を獲得することを目標にし、更に二〇世紀中に日本人全員を会員にすることを目的に設定するという組織、会員数の拡大の自己目的化、<3>他の宗教団体と比較し、内容が曖昧で統一性体系性に欠け、中身が希薄な教義(古今の偉人、宗教家、更には神話上の人物までが「霊」として原告大川に降り、同原告を通して語りかける「霊言」「霊示」をまとめたものが教義の柱とされている)、<4>宣伝、広告に依存した会員拡大運動など)を基に原告幸福の科学の特徴を表現したものにほかならず、右論評は公正な論評として認められるべきである。

イ 本件石原談話部分等の真実性又は相当性

本件石原談話部分等は、当時の原告大川を知る石原が「原告大川が商社を退職した直後の一時期に分裂病気味で完全な鬱病状態であった」という談話を述べている旨の事実を摘示するものである。

そして、本件石原談話部分は、元となる石原の談話を正確に引用したものであるところ、被告講談社の編集部は石原に対して後日談話内容の正確性を確認していること、他の取材源からの取材内容(原告大川が教団活動の初期の段階において精神的な失調に苦しんでいた旨の証言など)と整合していること、並びに「霊媒」「降霊術」に向けられた精神医学者の意見(ほぼ精神的疾病に罹患ないしは精神の正常範囲から逸脱しているものと認めるのが相当であるという一般的所見)及び原告大川の当時の言動等から合理的に推察できる精神状態に合致していることなどに照らし、同原告が宗教活動に目覚め、その実践的宗教体験を開始したころ、「分裂症気味で、完全に鬱病状態であった」と石原が評価したような精神的混迷状態にあったことは真実であり、仮に真実でなかったとしても被告講談社らが真実と判断し信じた点には相当の事情がある。

ウ 本件末尾部分の真実性又は相当性

本件末尾部分は原告幸福の科学の組織内に、原告大川に不信感、悪意を抱く者が発生している旨の事実を摘示するものであるが、会員らの間で、仏陀を名乗る同原告に不信感を抱く者が増え、原告幸福の科学から多数の離反者を生み出しているという事実は、取材、調査の過程で多くの事例により確認された真実であり、仮に真実でなかったとしても、被告講談社らが真実と判断し信じた点には相当の事情がある。

(乙事件)

1 被告講談社の主張

(一) 原告幸福の科学による不法行為

(1) 本件各抗議行動による業務妨害

ア<1> 本件電話・ファクシミリ抗議行動

あ 被告講談社は本社及び各支社合わせて一三七〇本の電話及び一〇〇回線のファクシミリを設置して、常時業務用に使用している。特に、出版業務において著者、取次店、書店、印刷業者及び記者その他出版関係者との頻繁な通信及び連絡を必要とするものである。

被告講談社の本社及び各支社に設置されている電話回線(内線)、電話器(受話器)、ファクシミリ回線、ファクシミリ送受信器の台数は別紙(九)電話・ファクシミリ回線数一覧表記載のとおりである。

被告講談社の本社は、構内自動交換機システムを採用しており、一つの外線ごとに二回線ないし二四回線の内線回線が部局ごとにまとめられており、ある内線回線が通話中の時には自動的に他の外線回線を経由して同じ部局の他の内線回線に切り換えられ、その内線回線が通話に供されるというシステムを採用している。

そして、被告講談社の本社の同時通話許容能力は同会社が保有する外線回線の数に規定され、外線回線数を超える送信があった場合には被告講談社は一切の送受信が不可能となる。また、当該部局に割り当てられた内線回線全部が通話に供されたときは、その部局の送受信は一切不可能となる。

い 原告幸福の科学は、平成三年九月二日午前八時三〇分ころから同月六日午後九時ころまでの間、会員らを組織的に動員して、被告講談社の本社及び各支社に対し、週刊フライデーに掲載された本件記事に対する抗議と称し、連日にわたり終日全業務用ファクシミリ回線に対し、週刊フライデーに対する抗議及び同被告野間社長退陣要求を記載した書面並びに原告大川の著作の一部等を間断なく送信し続け、また、同被告本社及び各支社設置のほぼ全部の業務用電話回線に対し間断なく電話を架けて週刊フライデーの本件記事に対する抗議等を行わせ、右抗議行動期間中、同被告の通信機能をほぼ完全に麻痺させた。

<2> 本件集団抗議行動

原告幸福の科学は、平成三年九月二日ころから同月一二日までの間、会員らを組織的に動員して、被告講談社本社及び各支社に対し、週刊フライデーに掲載された本件記事に対する抗議と称し、同被告本社及び各支社の構内・社屋への突入及び野間社長又は各支社長への面会強要、同被告従業員等の無断写真撮影など、同被告本社構内・社屋への右従業員等の入構妨害、拡声器やシュプレヒコールを大音響で反復する同被告本社前及び全国各地でのデモ行進、同被告を「ヤクザ」と関連づける誹謗宣伝並びに同被告ら関係者への抗議文の送付など甚だしい態様による本件各抗議行動を行わせ、右抗議行動期間中、同被告の通常業務に著しく支障を生じさせた。

イ 原告幸福の科学の指揮による会員の組織的動員

原告幸福の科学は、原告代表役員--幹部職員--本部職員--支部職員--会員という構成で組織された有機的組織体である。

本件各抗議行動は、原告幸福の科学の代表役員の承認又は関与の下に、平成三年八月末ころ同原告の幹部職員らによって、その概要が計画された。そして、右計画に基づき、同原告の本部から全国の各支部に対し被告講談社のファクシミリ番号が知らされるとともに、抗議のファクシミリを送るよう指示が出された。右の具体的行為の指揮命令を受け、全国の会員らが組織されて、右各抗議行動を行ったものである。

本件各抗議行動が原告幸福の科学の指示に基づくことは、右各抗議行動の態様に統一性・画一性があること、同原告自身の考案に係る被告講談社の業務に対し攻撃戦術の詳細かつ具体的直接的な指示を行っていること、同被告が右業務妨害に対して抗議したことに対し、同原告は更に平成三年九月五日抗議の意思表明を行っていること、原告大川が同月一五日会員らに対し右各抗議行動を行うよう煽動したこと及びその模様などに照らして明らかである。

ウ 原告幸福の科学の責任

本件各抗議行動は、原告幸福の科学が指令し、会員らを組織的に動員して統一的に実行したものである。したがって、同原告は右行為により被告講談社に生じた損害について、第一次的には民法七〇九条及び四四条に基づく不法行為責任を、第二次的には民法七一五条一項に基づく使用者責任を負う。

<1> 民法七〇九条及び四四条の責任

原告幸福の科学は、本件各抗議行動を同原告の宗教活動の一つと位置づけ、その旨会員らに伝えて指揮命令を発し、会員らをしてその旨信じこませて本件各抗議行動により業務妨害行為を行わせたものであり、右各抗議行動は同原告の事業執行そのものであり、会員らの個別具体的な不法行為というよりむしろ高度の組織力を持つ同原告が行ったというべきである。

したがって、本件抗議行動については原告幸福の科学が民法七〇九条に基づく不法行為責任を負担すべきである。

<2> 民法七一五条の責任

原告幸福の科学は前記のとおり教団本部、支部及び会員制という連結で組織された有機的組織体として活動している。右に照らすと、同原告と雇用関係を有し、その指揮監督に服している教団職員らはもちろんのこと、このような明確な関係はないものの、原告大川(原告幸福の科学の代表役員で御本尊である)への絶対的帰依を基盤に、教義の実践、布教宣伝活動その他の事業活動において原告幸福の科学の絶対的指揮監督関係に服する会員らは、いずれも同原告の「被用者」の地位にあるというべきである。

また、教団職員ら及び会員らによる本件各抗議行動はいずれも原告幸福の科学の教義の実践及び布教宣伝活動として行われたのであるから、同原告の「事業ノ執行ニ付キ」されたものというべきである。このことは同原告は本件各抗議行動を宗教活動の一環として位置づけていることからも明らかである。

(2) 本件記者会見による名誉毀損

ア 被告講談社の社会的地位

被告講談社は総合出版社として客観的で中立かつ公正な報道、出版活動を行うものである。

イ 本件記者会見内容等及び被告講談社の社会的評価の低下

本件記者会見において白木は、被告講談社が首脳陣の判断で、原告幸福の科学の存立基盤を脅かす報道を意図的に行っているということ及び同被告発行の週刊フライデーと宗教法人真如苑(以下「真如苑」という)は過去に係争事件を起こしたことがあるが、右問題を金銭的に解決したことを機に両者が癒着し、右癒着の事実が週刊フライデーの同原告に対する攻撃の原因となっていることなどの虚偽の事実を述べ、右内容をテレビ等により報道させて公衆に伝達させた。

そして、被告講談社が真如苑と一体となり、真如苑の意向で原告幸福の科学を攻撃するため本件記事を掲載したかのような印象を一般公衆に与え、同被告の前記社会的評価を低下させた。

(二) 業務妨害の存在及びその損害

(1) 被告講談社は本社及び各支社において、本件電話・ファクシミリ抗議行動により出版業務の最重要機能である通信機能を四日間にわたり完全に麻痺させられて外部との通信手段を絶たれ、広告受注業務等に多大な損害を被った。すなわち、ほとんどすべての部署において、従業員は右抗議電話の応対やファクシミリ受送信機に業務上の通信が送信されてくる場合に備えて用紙の補充作業等を繰り返し、また、間断なく送信される文書中に業務上の通信が混在していないかを確認するなどの作業を強いられ、このために膨大な時間と労力を費やすことを余儀なくされ、本来の業務の遂行を著しく侵害された。

また、本件集団抗議行動に関しては、右各抗議行動に対応するため本来の通常業務以外の業務が必要となり本来の業務が停滞し、屋外でのシュプレヒコールにとどまらず、社屋内へ乱入した教団職員ら及び会員らの怒号は被告講談社内の各仕事場に大音響で響きわたり、このような騒擾行為と電話攻撃により同被告従業員らは本来の業務を行っていても強い恐怖感、不安感を抱くなどして仕事に集中できず著しく業務の作業能力が低下させられた。さらに暴徒化するおそれのある教団職員ら及び会員らに対し特別警戒警備の体制を取らざるを得ず、また、近隣に会議室を借用して作業環境を整備するなどして連日にわたり著しく業務を阻害され、加えて騒音や間違い電話、ファクシミリなどにより近隣の住人や会社等に多大な迷惑を及ぼしたため同被告が謝罪を強いられた。このため、多大の経済的、財産的損害を被った。

右の不法行為により被告講談社が被った損害は二億円を下らないと評価するのが相当である。

(2) 被告講談社は本件各抗議行動及び本件記者会見により、中立公正であるべき出版社としての社会的評価を著しく低下させられた。

また、原告幸福の科学の指示により、会員らが今後も同被告に対する本件各抗議行動と同様の業務妨害行為に出る危険性がある。

したがって、被告講談社の名誉、信用を回復し、かつ、原告幸福の科学の会員の誤った認識を改めさせ今後二度と本件各抗議行動のような業務妨害行為を行わせないようにするため、同原告に対し、右(1)の金銭的損害賠償だけではなく、別紙(二)記載の謝罪広告を全国版新聞紙に掲載させることが必要である。

(三) よって、被告講談社は原告幸福の科学に対し、民法七〇九条、七一〇条、七一五条、七二三条及び四四条に基づき二億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成三年一〇月一八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、同原告の名誉回復措置として請求の趣旨(第一の二2)記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

2 被告幸福の科学の主張

(一) 請求原因に対する認否・反論

(1) 不法行為について

ア 本件各抗議行動による業務妨害の欠如

<1> 本件電話・ファクシミリ抗議行動は否認又は不知。

本件集団抗議行動は、教団職員ら及び会員らが被告講談社主張の行動を取った点は認めるが、その態様(集合した会員数、構内及び社屋への突入及び押入り、面会強要、大音響での反復連呼など)及び原告幸福の科学の指示は否認する。

本件各抗議行動はいずれも教団職員ら及び会員ら各自の個人的判断と責任において行われた行動である。

<2> 原告幸福の科学の指揮による会員らの組織的動員の事実は否認する。

<3> 原告幸福の科学の責任は、民法七〇九条の責任については法人である原告幸福の科学に民法七〇九条による直接適用があるとする主張は失当である。同法七一五条の責任については教団職員は原告幸福の科学との間で雇用契約に基づく指揮監督関係を有することは認めるがその余は否認し争う。

イ 本件記者会見の名誉毀損性の欠如

<1> 被告講談社が出版業を行うものであることは認めるが、同被告に公正・中立なる出版社という社会的評価が存在するという点は否認し争う。

被告講談社の社会的評価は、販売数を上げるためスキャンダルや噂話あるいは雑誌記者の雑感等を掲載し、週刊フライデーや週刊現代などの大衆向け雑誌を発行し、名誉毀損事件を常習的に生じさせているメディアというものである。

<2> 本件記者会見の内容は認めるが、右内容がテレビ等により報道された点については知らず、その余は否認する。

(2) 業務妨害の存在及び損害はいずれも否認し争う。

(二) 抗弁(違法性阻却)

(1) 本件各抗議行動について違法性阻却事由としての正当性

被告講談社が平成三年五月一三日から同年九月五日までの三か月半余りの間に発行した雑誌等には一五本に及ぶ原告幸福の科学に関する記事が掲載された(別紙(一〇)被告講談社の幸福の科学関連記事一覧表(その1ないし3。以下併せて「関連記事一覧表」という)参照)ところ、そのほとんどが同原告を誹謗中傷する内容の捏造記事である。右捏造程度の甚だしさ、誹謗中傷程度の激しさ及び反復継続する執拗さには、「言論の暴力」による原告幸福の科学及び原告大川に向けられた同被告の強い悪意と宗教上の人格権を破壊せんとする攻撃的意図が認められる。

会員らは被告講談社の右「言論の暴力」に対し、やむにやまれず自発的に本件各抗議行動に駆り立てられたものであり、右各議行動等は表現行為、示威行為を中心としており、有形力は行使されていないことを考えれば、抗議行動として許容範囲内にある正当な行動として違法性が阻却されるべきである。本件電話・ファクシミリ抗議行為も被告講談社の有する多大な影響力や自己の意見表明の容易さ及びその濫用による被害の甚大さと比較すれば、許容範囲内の正当な抗議行動として違法性が阻却されるべきである。

(2)本件記者会見における反論の必要性及び相当性

本件記者会見は被告講談社に対する反論としての正当な行為である。

被告講談社は平成三年五月から八月までの間に関連記事一覧表のとおりの記事を掲載した各種雑誌を販売し、原告幸福の科学を誹謗中傷する虚偽の事実を公衆に頒布することにより同原告の存立基盤を脅かす報道を意図的に行った。本件記事を含む右一連の報道を通じ、右の報道が被告講談社の首脳陣の判断で行われているものと同原告が判断したことには合理性がある。また、被告講談社が営利的企業判断の下に真如苑の意向を受けて同原告を攻撃したものと推測することには合理性があり、しかも、同被告が真如苑と癒着していることが同原告を誹謗中傷する組織的宣伝行動の原因となっていることは真実であり、仮に真実でないとしても右の点は真如苑に関係していた同原告の会員ら複数の証言に基づいたものであって、同原告が真実と信じたことには相当性がある。

したがって、本件記者会見は同被告に対する反論として必要不可欠なものであり、内容も相当性を有するというべきである。

(丙事件)

1 原告大川の主張(請求原因)

(一) 原告大川の社会的地位

原告大川は恒久ユートピアの建設という大いなる使命を果たすべく、将来を嘱望された商社員という地位を棄てて信仰の道を歩む真摯な宗教家であり、その主宰する原告幸福の科学の会員約一五〇万人の帰依する絶対的指導者であって、教義を体現する「仏陀」として信仰の対象になっており、公私を問わずその言動が原告幸福の科学内外に大きな影響力を及ぼす偉大な存在である。

(二) 本件記事内容

(1) 甲事件(原告幸福の科学の主張)(二)(本件記事内容)(1)に同じ。

(2) 本件記事は原告大川が石原を訪ねノイローゼの相談をしたという点を中心とするものであり、一般読者は右記事中の石原談話部分等を読むことにより、同原告が商社在職中に精神分裂病に罹患し、商社勤務を継続することが不可能となるようなノイローゼないし精神異常を来していたかのような印象を受ける。

(三) 本件記事による原告大川の社会的評価の低下

世間一般に精神病患者に対する社会的差別意識が存在する状況下において、原告大川は過去の精神病歴という虚偽の事実を摘示され、本件石原談話部分等及び本件末尾部分の記事により、前記(一)のような社会的地位に在る者には全く相応しくない人物像を印象づけられ、その社会的評価を低下させられた。

(四) 損害

原告大川が本件記事によりその社会的評価を低下させられて被った精神的苦痛は甚大である。また、同原告は原告幸福の科学の主宰者の立場から、本件週刊誌の販売後もなお原告大川への信仰を持ち続けている会員らが本件記事により精神的苦痛や経済的不利益を被っている事態、あるいは、同原告に対する信仰を不本意にも断念せざるを得なかった会員らの無念さ及び右信仰に疑問を抱き脱会した会員らの魂の悔恨に接した際に被った精神的苦痛も著しいものがある。さらに、本件記事により布教活動を阻害され、書籍の販売の売上げを通じての布教活動にも支障を来しており、同原告はこのことによっても重大な精神的苦痛を被っている。

原告大川の右精神的苦痛を慰藉するには一〇〇〇万円が相当である。

(五) よって、原告大川は、被告講談社に対しては民法七一五条、七〇九条及び七二三条に基づき、被告元木及び同早川に対しては同法七〇九条及び七二三条に基づき、慰藉料として各自一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成五年三月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、同原告の名誉回復のための措置として請求の趣旨(第一の三2)記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

2 被告講談社らの主張

(一) 請求原因に対する認否・反論

(1) 原告大川が原告幸福の科学の主宰者として絶対的指導者の地位に在り、教義を体現する「仏陀」として信仰の対象になっており、公私を問わずその言動が同原告内外に大きな影響力を及ぼすという点は認め、その余は知らず、社会的評価は否認し争う。

(2) 本件記事内容及び名誉毀損性の欠如

本件石原談話部分等は、原告大川の過去の一時期の精神状態の不安定さを摘示するにとどまり、同原告の現在の社会的評価に影響を与えるものではない。また、石原談話に引き続く一三行の記述及び本件末尾部分はいずれも、同原告個人の社会的評価に関連した具体的事実を摘示したものではなく、同原告の社会的評価を形成する記述でもないから、右記述は同原告の社会的評価を低下させるものではない。

(3) 本件記事による原告大川の社会的評価の低下は否認し争う。

(4) 損害はいずれも否認し争う。

名誉毀損による損害賠償は、ある言明により社会的評価を低下させられたことについて言明の対象者に生じた損失を損害とするものであり、言明の対象者ではない第三者に生じた損害を賠償するものではないから、本件石原談話部分等により精神的苦痛を被った会員らの損害を原告大川の損害としてその填補を求める同原告の主張は失当である。

(二) 抗弁(違法性阻却--真実性又は相当性の抗弁)

(1) 公共的関心事ないし公共的利害事項

原告大川は原告幸福の科学の主宰者として絶対的指導者の地位に在り、信仰の対象とされている者であるが、多大な社会的影響力を有する宗教団体の教祖が右宗教団体を設立するに至る経緯、右教祖の精神状態、健康状態及び私的行状の特徴等は社会的文化的意義を認められるべき公共的関心事であり、これらの事項を取り上げている本件記事は全体として公共利害事項に該当するというべきである。

(2) 公益目的

本件記事は、平成三年七月一〇日の原告大川の御生誕祭にみられる原告幸福の科学の興隆を紹介し、そこに至るまでの同原告の足跡を追い、その中で問題点を指摘した調査報道記事の一つとして、同原告の今日の活躍を際立たせるため原告幸福の科学設立以前の原告大川に関する挿話の一つとして本件石原談話を引用したにすぎない。

被告講談社らは、社会的勢力となり国民文化に影響を与え始めた宗教団体の実情を国民に伝え、これを批判的に報道するという報道の社会的使命に根ざす公益目的をもって本件記事を執筆、掲載及び販売した。

(3) 真実性又は相当性

甲事件2(被告講談社の主張)(二)(抗弁)(3)イに同じ。

(丁事件)

1 原告大川の主張(請求原因)

(一) 原告大川の社会的地位

丙事件1(原告大川の主張)(一)(原告大川の社会的地位)に同じ。

(二) 本件警告文内容

(1) 本件警告文は別紙(八)のとおりの内容を有するものであり、被告講談社及び同被告の広報室長である被告杉本は、右警告文を掲示した看板を不特定多数人が通行する公道に面して設置した。

(2) 本件警告文の冒頭から「刑法二三三条偽計業務妨害罪、同二三四条威力業務妨害罪に該当するものであることは明らかです」までの部分は、あて名を原告大川とし、同原告が会員らと共謀して犯罪行為に該当する被告講談社に対する業務妨害行為を行ったという虚偽の事実を摘示するものであり、一般読者は本件警告文により、同原告が業務妨害罪の共謀共同正犯という犯罪者であるかのごとき印象を受ける。

(三) 本件警告文による原告大川の社会的評価の低下

原告大川は本件警告文で前記(一)の社会的地位に在る者として全く相応しくない犯罪者の主犯格という人物像を印象づけられて、その社会的評価を著しく低下させられた。

(四) 損害

原告大川が本件警告文によりその社会的評価を低下させられたことにより被った精神的苦痛は甚大であり、同原告が会員数約一五〇万人を擁する原告幸福の科学の主宰者であることを考慮すれば、その精神的苦痛を慰藉するには二〇〇〇万円が相当である。

(五) よって、原告大川は、被告杉本に対し民法七〇九条、七一〇条及び七二三条に基づき、被告講談社に対し同法七一五条、七〇九条、七一〇条及び七二三条に基づき、慰藉料として各自二〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成五年七月一五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告大川の名誉回復のための措置として請求の趣旨(第一の四2)記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

2 被告講談社及び同杉本の主張

(一) 請求原因に対する認否・反論

(1) 丙事件2(被告講談社らの主張)(一)(請求原因に対する認否・反論)(1)に同じ。

(2) 本件警告文及び名誉毀損性の欠如

ア 本件警告文は、平成三年九月五日、同月二日から開始された会員らによる本件各抗議行動による業務妨害に対し、被告講談社が同被告の正門前に掲示した文章であり、会員らが行った右行動を事実として摘示し、右行為が偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪に該当する行為であるという法的評価を述べた上で、右行為の指導者である原告大川を名宛人とするものである。

そして、本件各抗議行動の模様が連日報道され社会の耳目を集めていた状況下にあって、当時の原告大川の社会的評価は正に原告幸福の科学の会員らをして本件抗議行動をさせていた首謀者というものであって、本件警告文が殊更同原告の社会的評価を更に低下させたということはない。

本件抗議行動の態様に照らし、右行動が業務妨害罪に該当すると評価することは相当であり、また、本件抗議行動を煽動したのが原告大川であり、組織化された激烈な業務妨害行為の暴走化をくい止め、右行動を中止させられるのも同原告しかいないことを考慮すれば、同原告を名宛人としたことも相当であって、実質的違法性を欠き、何ら名誉毀損に該当しない。

イ 被告杉本の責任原因の欠如

被告杉本が被告講談社の広報室長であることは認めるが、被告杉本は本件警告文貼付の看板の掲示及びその内容につき一切関与しておらず、右警告文に関する責任を負う立場にはないから、原告大川の同被告に対する請求は失当である。

(3) 本件警告文による原告大川の社会的評価の低下は否認し争う。

(4) 損害は否認し争う。

(二) 抗弁(違法性阻却--真実性又は相当性の抗弁)

(1) 公共利害事項、公益目的

被告講談社は、同被告の業務の麻痺を狙った組織的業務妨害行為にさらされる中で、法的手段による救済を求める前に、原告幸福の科学らが自主的に右違法行為を中止することを期待して、本件警告文を作成、掲示したのであり、右右警告文の内容は犯罪行為を指摘しその実行の反復継続の中止を求めるという公共の利害に関する事柄であって、公益目的を有するものである。

(2) 真実性又は相当性

ア 乙事件(被告講談社の主張)(一)(原告幸福の科学による不法行為)及び(二)(業務妨害の存在及びその損害)に同じ。

イ したがって、原告幸福の科学の指揮の下に会員らにより本件各抗議行動が行われ、被告講談社の業務が妨害されたとの指摘は真実である。

(3) 原告大川の氏名摘示の相当性

原告大川が原告幸福の科学において絶対的な指導者として君臨していること、本件各抗議行動がその態様において高度に組織化され統率されて行われたこと、本件各抗議行動の直後に原告大川が被告講談社をはじめとするマスコミに対する抗議行動への煽動的、攻撃的アジテーションを行っていることなどから、原告大川が本件各抗議行動の指示を出したことは真実であり、仮に真実でないとしても当時の状況下において被告講談社が真実と判断したことには相当性がある。

第三  裁判所の判断

一  甲事件

1 原告幸福の科学の社会的地位ないし評価について

(一) 前記争いのない事実に《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告幸福の科学は昭和六一年に原告大川を主宰者とし「地上に降りたる仏陀(釈迦大如来)の説かれる教え、即ち、正しき心の探究、人生の目的と使命の認識、多次元宇宙観の獲得、真実なる歴史観の認識という教えに絶対的に帰依し、他の高級諸神霊、大宇宙神霊への尊崇の気持ちを持ち、恒久ユートピアを建設すること」を目的として発足し、平成三年三月七日宗教法人として設立された宗教団体であり、代表役員である原告大川を、神の言葉を預かる予言者・地上に降りたる仏陀として信仰の対象としている。

原告幸福の科学は、設立後わずか数年の間にその会員数が激増し、平成二年末ころは三〇万人程度であったものが、宗教法人となった同年七月一〇日には一五〇万人程度に達したと公表している。

原告幸福の科学は平成三年七月一〇日東京ドームにおいて原告大川の御生誕祭を開催し、その際には、布教活動で活躍した会員を「獅子奮迅菩薩」として表彰するなどし、会員数は一五二万七二七八名に達したと発表し、同月時点で同年中に五〇〇万人の、平成四年七月一五日には一〇〇〇万人の会員数を獲得し、更に二〇世紀中に日本人全員を会員にするよう布教活動に務めることを奨励した。

また、原告幸福の科学は大手広告代理店を使い、多額の広告費を費やし、新聞、テレビ等あらゆるマスコミ媒体を介して同原告の催事や原告大川の著作物の宣伝を行い、「時代はいま、幸福の科学」なるコピーを広く一般大衆に広めるなどし、また、「病気癒しをしない宗教」「いつでもやめる宗教」「啓発」を標語とした新しい宗教団体という印象を創出し、これを定着させ会員層を拡大した。また、原告幸福の科学は、原告大川が「自働書記」を契機に次々と降りてきた過去の偉人の「霊言」を語り、自らを「地球の最高の権限を握ったエル・カンターレである」「仏陀の生まれ変わりである」と唱えている旨宣伝している。

(2) 原告大川は昭和三一年七月七日徳島県において出生し、地元の小・中学校、県立高校を経て、昭和五六年三月東京大学法学部政治学科を卒業後総合商社である株式会社トーメンに入社した。同原告は同会社において財務本部外国為替部輸出外国為替課などの勤務を経て、アメリカの大学に留学した際は国際金融論を専攻し、帰国後財務本部財務部資金課勤務を経て昭和六一年四月国際金融部輸入外国為替課に配属となったが、同年七月一五日に同会社を退職し、同年一〇月六日原告幸福の科学の前身の「幸福の科学」事務所を開設してその主宰者となった。

原告大川は自身が宗教家となった経緯について、次のように述べている。すなわち、同原告は大学卒業時である昭和五六年三月ころ、高級霊からの啓示を受け、その際仏法流布による一切の衆生救済という宗教家としての使命を告げられるとともに、自らについて過去世インドの地では釈迦として仏法を説いた者であり、天上界ではエル・カンターレと呼ばれる意識体であったと告げられ、現世においては天上界の高級霊と地上の諸宗教を整理・統合して新しい世界宗教を創り、全人類の魂の救済・恒久ユートピア建設を目指して、商社における人間修行を経て原告幸福の科学を主宰する宗教家になったものである。

(3) 原告大川は商社在職中の昭和五八年八月ころ同原告の父との共著で「日蓮聖人の霊言」「空海の霊言」「キリストの霊言」等の霊言集を最初の著作として出版し、その後次々と「霊言集」を著作しては出版しているが、右はいずれも古今の偉人、宗教家、更には神話上の人物(例えば、空海、天照大神、天之御中主之命、キリスト、モーゼ、ニュートン、ベートーベン、マックス・ウェーバー、高橋信次及び内村鑑三など)が「霊」として同原告に降り、同原告を通して語りかけるという内容のものである。

原告幸福の科学ではこれらの「霊言」「霊示」をまとめたものを教義の柱として取り扱っている。

(二) ところで、一般大衆の宗教団体に対する社会的評価は、宗教団体における指導者の人格、教義内容及び当該宗教団体の社会的活動の実態などを総合して形成されるものであるが、前記認定事実を総合して評価すれば、原告幸福の科学は古今の偉人、宗教家、更には神話上の人物等の言葉をまとめたものを教義とするなど教義内容の独自性は希薄であるものの、意欲的に広告代理店、マスコミ媒体を駆使して、印象づけ、雰囲気作りを運営の基本に据え、原告大川の前記のような著作の販売とともに急激に会員数を増大させ、現在では最も成功した新興宗教の一つとして広く社会から注目され、関心を集めている存在であるということができるところ、特に「新興宗教」という言葉には一般に新しく興ったという意味だけでなく、怪しげで宗教的価値に乏しく、うさんくさい、功利的、拝金主義、薄っぺらなどという微妙な意味合いが通常含まれており、原告幸福の科学に対しても新興宗教という点において当初から一面においてそのような社会的評価を受けがちであったというべきである。

2 そこで、原告幸福の科学は本件記事のうち本件見出部分、本件石原談話部分等及び本件末尾部分によりその社会的評価を低下された旨主張するので、同原告の前記社会的評価を前提に判断する。

(一) 本件記事内容及びこれに対する一般読者の受ける印象について検討する。《証拠略》によれば次の事実が認められる。

(1) 本件見出部分は、「急膨張のバブル教団」との表現で昭和六一年に発足して平成三年三月七日に宗教法人として設立されるまでの短期間の間に急激に会員数を増大させた原告幸福の科学の発展の有様をとらえ、その発展の構造と本質を端的に表現するものであると認められ、また「連続追及」「急膨張するバブル教団」「大川隆法の野望」「神を名のり」「ユートピアぶち上げて」「新興集団」「裏側」の名表現からなる本件見出部分はいずれも特定の事実を摘示するものとまでは解されない。

(2) 本件石原談話部分等は、原告大川が商社在職中「中川一郎」と名乗り、石原の開設していた人生相談所を訪問し「自分にはキツネが入っている」と述べて、ノイローゼの相談をしたこと、石原は同原告を分裂症ぎみで、完全に鬱病状態であると判断したことの各事実を摘示するものであり、一般読者に対し、同原告が精神分裂病、鬱病に罹患した経験を有するとまでの理解ないし印象を与えるものではないが、同原告が商社に在職した過去の一時期精神的に不安定な鬱病状態にあった旨の印象を与えるものであると解するのが合理的である。

(3) 本件末尾部分は、原告大川への悪意のある質問を避けるために集会において原告大川への質問を受け付けなくなったことや原告中川のいかがわしさが原告幸福の科学の組織内でも問題とされつつあることの各事実を摘示していると理解されるところ、右記述により一般読者は原告幸福の科学は原告大川への悪意のある質問を避けたり、質問自体を制限したりしているという事態が生じているという印象を受けるものと解される。

(二) すると、前記認定によれば、まず本件見出部分は具体的事実の摘示を欠くものであり、本文の内容を簡略かつ端的に表示し読者の注意を喚起して本文を読ませようとする見出しの性質上いささか刺激的な語句が用いられているが、原告幸福の科学の個々の会員の名誉感情を害することがあるのは格別、同原告の社会的評価を低下させる内容のものとまではいえない。

また、本件石原談話部分は、同原告設立前の時期における原告大川個人の精神状態に関するものである。すると、原告幸福の科学が教義の中心に原告大川を位置づけ、教祖である同原告を中心に組織され運営されているものであるとしても、右両者は別異の法人格であるから、右摘示事実が原告幸福の科学の社会的評価を直接侵害するものということはできず、右記事部分は原告幸福の科学の社会的評価を低下させるものではないというべきである。

さらに、本件末尾部分が一般読者に与える印象は、集団内における集会、会合において往往にしてみられる言論統制の現象を印象づけるものであるが、宗教団体としての性格が不透明であって、世俗的側面の印象を強く与える原告幸福の科学が当時有していた社会的評価を低下させるほどのものではないというべきである。

3 宗教法人及びその主宰者に対する批判行為が名誉毀損行為に当たるかどうかの判断に当たっては、これらの者が次に述べるような特別な地位にあることが考慮されなければならない。

すなわち、宗教団体とは宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するなどの宗教活動を行う団体であり(聖的側面。宗教法人法二条参照)、宗教法人とは宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有、維持管理し、その他その目的達成のための業務及び事業の運営に資するため、当該宗教団体に法律上の能力を付与したものである(俗的側面。同法一条、四条参照)。

そして、宗教団体は宗教法人規則を作成し所轄庁の認証を取得して設立登記をすることにより宗教法人として成立し(同法一二条一項七号、一四条、一五条)、その結果宗教法人法の適用の下に、世俗的事務取扱機関の設置や一定の管理運営方法の施行等の義務を負う一方、所有不動産の宗教法人名義での登記など財産管理上の利点を取得することができる。また、宗教法人は憲法による信教の自由の保障の下に、公の機関の干渉を受けることなく自主的、自律的に管理運営されており、制度上民法法人と異なり、設立のための認証取得、業務管理運営及び解散等の各場面において所轄庁の関与が制限され、特に宗教上の事項への関与は厳しく排除されている。更に、宗教法人は、公益法人としてその収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課され(二八パーセント。なお、通常の法人税率は四三・三パーセント)、その法人の本来の事業(非収益事業)から生じた所得は非課税とされるなど、税法上も優遇措置を受けている。

このように、宗教法人及びその主宰者等は、法による手厚い制度的保護の下に、人の魂の救済を図るという至上かつ崇高な活動に従事しているのであり、このような特別な立場にある団体ないしその責任者は、常に社会一般からその全存在について厳しい批判の対象とされるのは自明のことというべきであろう。

すると、本件記事が仮に主宰者たる原告大川や原告幸福の科学の熱心な会員らの感情を害することが少なくないとしても、これをもって右記事の掲載を違法ということはできないものというべきである。

4 以上のとおりであり、原告幸福の科学の請求はその余について判断するまでもなく理由がなく、失当であることが明らかである。

二  乙事件

1 会員らによる被告講談社に対する本件各抗議行動の有無について

(一) 前記争いのない事実等に《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件電話・ファクシミリ抗議行動について

会員らは、九月二日午前八時三〇分ころから同月六日午後九時ころまでの間、被告講談社本社設置の全業務用ファクシミリ回線に対し、週刊フライデーに対する抗議及び被告講談社社長退陣要求を記載した書面並びに原告大川の著作の一部等を間断なく送信し続けたり、同被告本社及び各支社設置のほぼ全部の業務用電話回線に対し間断なく電話を架けたりして週刊フライデーに本件記事を掲載したことに対する抗議等を行った。被告講談社の本社に送信されたファクシミリ文書は総数にして約五万五〇〇〇通、重さ約二四〇キログラムに達している。また、会員の右電話の内容も同月六日からのものはほとんど無言電話化した。

また、会員らは、北海道、東北、中部、関西、中国・四国及び九州の各支社においても同月二日午前九時ないし午前九時三〇分ころから、一斉に電話を間断なく架け続け、また、ファクシミリにより「フライデー廃刊」「社長退陣」などの要求を記載した文書を昼夜を問わず間断なく送信するなどした。このため受信の極度集中によりファクシミリが故障する事態も生じた。

会員らの右電話等による抗議行動は同月六日午後九時ころまで続き、これにより、電話回線及びファクシミリ回線は業務上の使用がほとんど不可能な状態になり、この間、被告講談社の本社及び各支社では、印刷所、著者、書店及び出版関係者らとの通信ができなくなった。

(2)ア 九月二日午前一〇時すぎ、原告幸福の科学の教団職員(前田節、安永某、勝屋某、佐竹某、江夏某及び河内某)らは会員らを指揮し抗議文を持参して被告講談社本社前に少なくとも約一〇〇名以上で集合し、同被告野間社長に面会を求め、同被告総務担当者と押し問答を繰り返し、同被告が現に業務を行っている本社構内及び社屋に同被告側警備員の制止を振り切って一階大廊下付近にまで侵入した。そして午前一一時すぎころまで、会員らは同被告本社社屋一階大廊下及び応接室一帯を占拠して「フライデー廃刊」「社長を出せ」等を拡声器を用い、また、シュプレヒコールをもって反復連呼し、その結果、午前一一時一〇分ころから約三〇分間にわたり、同原告の総合本部の教団職員ら五名が代表者として同被告の取締役、フライデー編集長、広報室長の三名と会見し抗議の意異を伝えた。

その後、右教団職員らは被告講談社本社構内の社屋玄関前に待機していた会員らに対し右会見の報告を行うとともに、同被告を非難する演説を行った。これにより、会員らは一時散会したが再び集会し、同日午後二時、五時の二回にわたり同被告の担当者に面会を要求し、会見に応じさせた。右会見中、同被告本社構内の正門前に集合した数百名程度の会員らは拡声器を用いて「フライデー廃刊」「社長退陣」などのシュプレヒコールを繰り返した。

イ 会員らは、九月二日以降、被告講談社の各支社に対しても、多数人で押しかけ、各支社長への面会を要求し、また、同月五日ころまで各支社の社屋内での示威行動や社屋前での抗議集会などを行い、シュプレヒコールを繰り返すなどした。

ウ 九月三日には、被告講談社は警備を強化して会員らの構内立入りを禁止したところ、午前一一時ころ数百名の会員らが同被告本社正門前路上に集合して抗議集会を開き、拡声器を用いるなどしてシュプレヒコールを繰り返した。同被告の担当者は、午前一一時ころから約四〇分間右会員らの代表団と会見し、同人らの要望を聞かされた。右会見は午後三時及び午後五時にも行われ、右会見中は会員らは継続して集会を開催し、同被告に対するシュプレヒコールを繰り返し、これを午後五時四〇分ころに退去するまで続けた。会員らによる右行動は六日ころまで連日行われた。

エ 会員らは九月四日午前九時一〇分ころ正門が閉鎖されていたため被告講談社本社通用門前に二〇ないし三〇名で集まって同所付近を徘徊し、そのころから午後五時過ぎころまでの間、同被告構内に入ろうとする同被告従業員ら及び関係者全員の顔写真を無断で無差別的に写真撮影したり、右通用門前に立ちはだかって「フライデーをどう思いますか」「インタビューに答えてください」などとコメントを求めたりするなどして、同被告従業員らの入構を妨害した。更に、写真撮影を避けようとして顔を新聞紙で隠した女性社員に対してはその新聞紙を剥ぎ取るなどの実力行使の暴行にまで及んだこともあった。

また、会員らは九月二日から同月六日までの間、被告講談社本社前路上を徘徊し、間断なく「フライデー廃刊」「社長退陣」等をスピーカーを用いて、あるいは、シュプレヒコールをもって反復連呼するなどして、同被告従業員らを威圧した。

オ 原告幸福の科学は九月五日及び同月六日、幸福の科学出版株式会社(同会社は同原告の書籍販売部門というべき会社である旨自称している。以下「幸福の科学出版」という)の車両数台に先導されて、会員ら数百名以上でデモ隊を構成し、午前一一時二五分ころ被告講談社本社前を通過させた。

デモ隊の横断幕には「女性の敵=講談社を断固粉砕せよ」「嘘を売るフライデー講談社を許すな」「講談社=フライデーの毒牙から子供を守れ」というものがあり、また、会員らが掲げるプラカードには「フライデー廃刊」との記載がされたものが多く存在し、間断なく「フライデー廃刊」「社長退陣」等をスピーカーを用いて大音響で反復連呼し、またシュプレヒコールを行った、会員らは複数本の原告幸福の科学の旗を掲げていた。

同月七日に会員らが呼びかけて「講談社フライデー全国被害者の会」(会長景山民夫)が発足し、同月八日及び同月一二日に同会の呼びかけにより被告講談社本社前を通過するデモ行進が行われた。右デモの先導も幸福の科学出版の車両が行い、会員らは複数本の原告幸福の科学の旗を掲げていた。

カ 会員らは九月九日午前九時三〇分ころ約数十名で集まり、被告講談社本社前歩道上に一列に並び「野間社長はヤクザを使うな」「野間社長は殺人までするのか」「講談社は署名妨害にヤクザを使うな」「悪徳講談社」等と記載しプラカードを掲げて示威行動を行い、また、スピーカーを用いて「ヤクザを使うとは何事か」「ヤクザを依頼して動くことはやめてほしい」等を反復連呼するなどした。

キ 会員らは九月二日から同月六日までの間、抗議の手紙を作成し、これを被告講談社役員及び従業員らの自宅及び職場に対して送付した。

(3) 被告講談社は本件各抗議行動につき九月五日同被告本社正門前に本件看板を設置して本件警告文を掲示するとともに、翌六日警視庁に対し原告大川を業務妨害罪で告訴し、また東京地方裁判所に対し業務執行妨害禁止の仮処分命令を申し立てた。

その一方で、被告講談社は右各抗議行動の間、本来の業務を遂行するため、同被告の本社及び各支社において、本件電話・ファクシミリ抗議行動に対処するため、外部との通信手段として自動二輪車等による文書配達等を強いられ、また、広告受注業務等ほとんどすべての部署において、従業員は右抗議電話の応対やファクシミリ受送信機に業務上の通信が送信されてくる場合に備えて用紙の補充作業等を繰り返し、また、会員らから間断なく送信される抗議文書中に業務上の通信が混在していないかを確認するなどの作業に膨大な時間と労力を費やすことを余儀なくされた。

また、本件集団抗議行動に対処するため、本来の通常業務以外の業務が必要となり本来の業務が停滞し、暴徒化するおそれのある教団職員ら及び会員らに対し特別警戒警備の体制を取り、また、近隣に会議室を借用して作業環境を整備するなどした。

さらに、屋外でのシュプレヒコールや社屋内での教団職員ら及び会員らの騒擾行為と電話攻撃により同被告従業員らは業務従事中強い恐怖感、不安感を抱くなどして業務に集中できず、著しく作業能力が低下させられただけでなく、会員らによる近隣住民や会社等に対する騒音や間違い電話、ファクシミリなどにより右住民らに多大な迷惑を及ぼし、このため同被告は謝罪に奔走しなければならない事態も生じ、これによる経済的出捐の被害も被った。

(二) 右認定事実によれば、会員らによる本件各抗議行動により被告講談社の業務に著しい支障を来したことが明らかに認められ、右各抗議行動は違法というべきである。

そして、宗教法人ないしその信者らの宗教活動にかかわる抗議行動は社会的にみて正当な目的に基づくものであり、その手段、方法及び結果が社会通念に照らし相当である限り、宗教法人の正当な宗教活動の範囲内にあるものとして許容される場合もある。しかし、前記認定のとおり本件各抗議行動は、数十名ないし数百名による拡声器等を用いた激しい喧噪を巻き起こす集団示威行動、構内・社屋への押入り及び面会強要などの態様、全国的規模で連日業務時間中の間断なく反復継続性を有する同種抗議行動が被告講談社本社及び全国の各支社という広範囲に及び軌を一にして行われたことなどが認められ、また、ファクシミリ文書は内容的に見て宗教活動としての品位を備えた相当な抗議文と評価し得るものではないこと、その分量、通数、間断ない送信状態による業務妨害という態様の甚だしさなどに照らし、到底社会的に相当な抗議行動ということはできず、右各抗議行動の違法性を阻却する事由は認められない。

(三) したがって、本件各抗議行動は、会員らの共謀に基づく業務妨害行為として民法七〇九条に定める違法な行為といわなければならない。

2 原告幸福の科学の不法行為責任の有無について

(一) 非営利団体である宗教法人の会員が第三者に損害を与えた場合に、その会員が宗教法人との間に被用者の地位にあると認められ、かつ、その加害行為が宗教法人の宗教活動などの事業の執行につき行われたものであるときは、右宗教法人は、右加害行為につき民法七一五条に定める使用者責任を負うものと解するのが相当である。なぜなら、宗教法人に限り民法七一五条の適用を排除しなければならない合理的理由はなく、また、役員その他の代表者の行為による宗教法人の損害賠償責任を定めている宗教法人法一一条の規定も宗教法人につき民法七一五条の適用を排除するものとは解されないからである。

(二) そこで、本件をみるのに、まず、本件各抗議行動を行った教団職員らが原告幸福の科学の被用者であることは当事者間に争いがないので、その他の会員らについて検討を加え、その上で本件各抗議行動が同原告の事業の執行に関する行為といえるものか否かについて判断する。

(1) 前記認定に《証拠略》を総合すれば、次の事実が認められる。

被告講談社が平成三年五月ころから同年八月までの間に関連記事一覧表のとおりの記事を同被告発行の雑誌等に掲載したことから、原告幸福の科学は同被告に対し三度(同年八月八日、同月二二日及び同月二九日。なお、同原告は同年六月にも週刊現代編集長宛てに抗議文を出している)にわたり抗議文を送付したこと、同被告は本件週刊誌への抗議文に対し「株式会社講談社フライデー編集部代理人弁護士」の名義で回答し、その中で本件記事の正確性と本件記事の連載企画を継続する旨の意向を示したこと、右回答は同年九月二日に同原告に到達し、同原告は右回答を挑戦的態度と受け止めたこと、他方、そのころである八月末ころ同原告では局長会議及び部課長会議が開かれ、原告大川の意向を受けて教団として同被告に対する強硬な抗議活動を展開することを決定したこと、原告幸福の科学は右強硬抗議方針に基づき、地方の幹部と首都圏の主たる会員ら数百名を中野区中野富士見町の「研修道場」施設に招集し、会員らに対し抗議行動を煽動するとともに、原告大川も会員らの闘争心を煽ったこと、原告幸福の科学においては電話・ファクシミリ網という手段で同原告及び会員らの間に情報網が張りめぐらされていたところ、同原告は同被告の業務に対する攻撃戦術として、S作戦、T作戦(電話による攻撃)、F作戦(ファクシミリ攻撃)、K作戦(抗議集会)、L作戦(手紙攻撃)、D作戦(デモ)等を考案し、ダイヤルインの電話回線をすべて調べ上げ、同原告の各支部、各地区ごとに時間帯による架電担当者を定めるなどして、全国各地の会員らに、同被告に対して電話を間断なく架電する態勢を作り上げ、分担を細かく定めて会員らを指揮、動員すべく本部から全国の支部に対し同被告のファクシミリ番号を知らせ、全国の会員らに指令を出したこと、同原告の各支部などから会員らに対してファクシミリで同被告に対する抗議を呼びかける文書が多数送信されていること、同被告に抗議のファクシミリ文書送信を多数の会員らが同時に行えるように、複数ファクシミリ回線番号を使い分けるようにその旨の指示する内容のファクシミリ文書も送信されていること、ファクシミリ文書の中に抗議行動への呼びかけやその抗議内容を記載しているもの及びファクシミリ送信を割当てたものなどが含まれていること、同原告もその主張において、同原告が自ら平成三年九月五日及び六日の同被告本社前を通過するデモ行進を組織し、その参加を各会員に呼びかけたこと(争いがない)、同原告から各会員に宛てたファクシミリによる文書にデモ行進への呼びかけを内容とするものがあることなどが認められる。

(2) 以上に加え、前記認定事実(特に本件各抗議行動の態様の画一性及び統一性、全国各地での同時多発的一斉の抗議行動の態様・規模など)を考慮すれば、教団職員ら及び会員らによる本件各抗議行動は原告幸福の科学の統一的指揮指令に基づくものであると認められるというべきである。

ア すると、民法七一五条一項の「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル」とは広く他人を自己の指揮監督下において仕事をさせることを意味するものであり、「事業」とは本人と他人との間に実質的な事実上の指揮監督関係があれば足りるというべきであるから、本件各抗議行動を行った会員らと原告幸福の科学の関係は、被告講談社に対する本件各抗議行動を行った会員らは同原告に献身しその指揮に従っていたものと認められるのであるから、同原告との間に実質的指揮監督関係があったものと認められ、したがって、右会員らは民法七一五条に定める同原告の被用者の地位にあるものと解するのが相当である。

イ 次に、右会員らの本件各抗議行動の事業の執行性について判断するのに、そもそも右各抗議行動の相当性はしばらく置くとしても、右各抗議行動は原告幸福の科学の宗教活動に対する批判に向けられた抗議行動と認識されており、同原告及び会員らにとっては正に宗教活動の一場面のものと位置づけることができる。しかも、原告大川は平成三年九月一五日に横浜アリーナにおいて会員らに対し「今の権力とは何か。国王でもない。議会でもない。今の権力とは、悪徳な右言論機関そのものなのです。この悪魔の牙城に対して、断固として抗議しなさい。プロテストしなさい。それが新しいプロテストの始まりとなるでしょう」と述べ、言論機関に対する抗議行動を宗教活動として位置づけ、これを煽る講演を行っていること、同原告は抗議行動を宗教活動の一環と位置づけていることが認められるのであるから、本件記事による原告らの名誉毀損に対する抗議行動として意義づけされており、原告大川の右講演が本件各抗議行動の後に行われたものであるとしても、その意思で会員らは行動しているものと推認できるから、原告幸福の科学の宗教活動に密接に関連しているものといえるばかりでなく、右認定の事実によれば、本件各抗議行動そのものが同原告の指示若しくは教義に基づく実践行為であると認められる。

すると、本件各抗議行動は民法七一五条に定める原告幸福の科学の「事業ノ執行ニ付キ」の要件を十分に充足しているものと認めるのが相当である。

なお、本件各抗議行動の開始日である九月二日が月曜日で原告幸福の科学では定休日となっていることが認められるけれども、右事実は何ら右認定を覆すには足りない。

ウ すると、原告幸福の科学は、会員らによる被告講談社に対する本件各抗議行動について民法七一五条に定める使用者責任を負っていることになるから、同原告自身の直接の不法行為責任の有無について判断するまでもなく、右会員らの本件各抗議行動によって被告講談社が被った後記損害を賠償すべき責任があるというべきである。

3 本件記者会見による被告講談社に対する名誉毀損の有無について

(一) 被告講談社の社会的評価について

(1) 前記認定に《証拠略》によれば、被告講談社は週刊フライデーを発行するほか、雑誌「週刊現代」同「月刊現代」を発行し、また、同被告の子会社である株式会社日刊現代が日刊紙「日刊ゲンダイ」を、同じく子会社である株式会社スコラが旬刊誌「スコラ」をそれぞれ発行していること、週刊フライデーはいわゆる世俗的写真週刊誌であり、中心的な掲載記事は大衆が野次馬的興味ないし関心を抱く未だ一般に公表されていない各界のスキャンダルやゴシップ記事が多く、これを読者に強く印象づけ販売部数を上げるためにあえて過激な表現を用い興味本位に描写する傾向の雑誌であること、同被告、株式会社日刊現代及び株式会社スコラは平成三年五月ころから同年八月ころの間に右各雑誌に関連記事一覧表のとおりの原告大川及び原告幸福の科学に関する記事を掲載したこと(本件記事は右の期間中の一記事である。以上の各事実は当事者間に争いがない)、このような同被告の原告大川及び原告幸福の科学に関する批判的内容の記事の執筆、掲載及び販売に対し、原告幸福の科学として平成三年六月二九日付けで週刊現代編集長に対し、同年八月二日付けで同被告野間社長に対しそれぞれ抗議文を送付し、更に本件記事に関して同月二二日付けで右社長に抗議文を送付し、また、会員らは本件各抗議行動に走っていたこと、右各抗議行動の模様はマスコミ各社から注目され、社会の耳目を集めていたこと等の事実が認められる。

(2) 右事実によれば、被告講談社は、本件記事掲載当時、原告幸福の科学と敵対関係にあり、その対立関係を更に煽り立てるような記事を掲載し続けており、冷静で客観的な報道機関のそれとはいささか様相を異にしていたものというべきである。

(二) そこで、問題とされる原告幸福の科学が行った本件記者会見をみるのに、《証拠略》によれば、同原告は平成三年九月三日、同原告本部においてマスコミ各社を集めて本件記事に関する記者会見を行い、その席上において、同原告の被用者で常務理事を務める白木をして、被告講談社はその首脳陣の判断で同原告の存立基盤を脅かす報道を意図的に行っていること及び同被告発行の週刊フライデーと真如苑は過去に係争事件を起こしたことがあるが、右問題を金銭的に解決したことを機に両者は癒着し、週刊フライデーの同原告に対する攻撃の原因となっているなどと述べさせたものであることが認められる。

右事実によれば、右会見内容は紛争の一方当事者の言い分にすぎず、前記認定の当時の両者の紛争状況を併せ考察すれば、右当時の被告講談社が得ていた社会的評価を新たに減殺させるような内容のものとは解されないというべきであるから、本件記者会見は同被告の名誉を毀損する行為には当たらない。

(三) したがって、本件記者会見による名誉毀損についての被告講談社の請求はその余について判断するまでもなく理由がなく、失当である。

4 被告講談社の損害の有無について

(一) 経済的損害について

被告講談社は損害として二億円の喪失を被った旨主張するが、具体的な算定根拠を欠き、右主張の損害額を認めることはできない。

しかしながら、前記認定の本件各抗議行動の規模、態様、期間、右各抗議行動により被告講談社が被った業務妨害の内容と程度、本来の業務遂行のために強いられた多大の労務投与、残務整理の労力、経済的出捐等に照らすと、同被告は右各抗議行動による業務妨害により相当の財産的損害を被っているものと認めるべきであり、右認定の諸事情及び同被告の事業規模(土門証言)を総合して評価すれば、右損害は一〇〇〇万円を下ることはないと評価するのが相当である。

(二) 被告講談社の謝罪広告の請求について

前記認定のとおり、被告講談社の名誉毀損の主張は理由がなく、また、本件各抗議行動により同被告が被った損害は財産的損害にとどまるものであり、その填補は前記認定の金銭賠償で尽くされているものというべきであるから、右填補の方法として更に謝罪広告を命ずることは相当ではない。

したがって、被告講談社の請求のうち謝罪広告を求める部分は理由がないというべきである。

5 以上によれば、被告講談社の原告幸福の科学に対する請求は右認定の限度で理由があるが、その余は理由がなく失当というべきである。

三  丙事件

1 原告大川の社会的地位について

(一) 原告大川の身上、経歴は甲事件(一)(2)に認定のほか、《証拠略》によれば、原告幸福の科学内では、原告大川は「自働書記」を契機に次々と降りてきた過去の偉人の「霊言」を語る者であり、「地球の最高の権限を握ったエル・カンターレ」とか「仏陀の生まれ変わり」といった存在と位置づけられていること、原告大川は本件記事掲載当時、会員数を急激に増大させて教団規模を膨張させ、マスコミ、出版、催事を駆使して国民各層の間に成長を訴えていた原告幸福の科学の教祖であり、自ら「仏陀の生まれ変わり」と位置づけ、その語る言葉を「神理」として教義として掲げるとともに、多数の著作を大量に発行しこれをマスメディアで宣伝販売することを通じて極めて顕著な世俗的係わりを有していたことなどの事実が認められる。

(二) 以上の認定を総合して考察すれば、一般大衆は原告大川につき、右のような超自然的非現実的言辞を唱え、世俗との関わりも顕著な宗教家であり、急激に会員数を増大させている原告幸福の科学の主宰者であるとの評価を抱いているものと認めることができる。

原告大川はこのようにして、人の魂の救済という崇高な使命感の下に、従来とはいささか趣を異にする宗教家として、原告幸福の科学という宗教法人の組織的拡大を図り、国民の精神的生活や文化に常に強い影響を与え続けようとしてきているものであり、同原告はこのような特別な社会的公共的な立場を考慮すれば、同原告は、常に広く社会から全人格にわたり厳しい批判、報道にさらされることを当然に甘受しなければならない立場にあるともいうべきである。したがって、同原告に対する批判、報道の違法評価は一般の個人に対する場合とは明白に異なるものというべきである。

2 加えて、本件石原談話部分等の内容及び右が一般読者に与える印象は甲事件2(一)(2)に記載したとおりであるところ、右認定の社会的評価及び本件記事内容等を前提にして、本件記事内容が原告大川の社会的評価を低下させるか否かについて検討するのに、それまでエリート商社員として勤務していた一個人が真実宗教的な存在へ生まれ変わらんとする時期に、本件記事で摘示したような程度の精神の不安定な状態を経験したとしても、一般人はこれに対していささかも違和感を抱くものではなく、宗教家、教祖としての原告大川の社会的評価を揺るがすものではないというべきである。

3 したがって、その余について判断するまでもなく、原告大川の請求は理由がなく、失当であることが明らかである。

四  丁事件

1 前記認定のとおり、本件各抗議行動は、原告大川が主宰者である原告幸福の科学が組織を挙げてその会員らに連日行わせていたものであり、原告大川も右各抗議行動に向けて会員らを煽り煽動していたものである。

また、《証拠略》によれば、右各抗議行動の模様はテレビのワイドショーや各種スポーツ新聞及び各雑誌などで当時盛んに取り上げられ報道されていたことが認められ、右のような状況下にあって、会員らの右行動の態様等の影響を受け、原告幸福の科学を主宰する原告大川に対しては様々な厳しい社会的評価が取り交わされ、一般視聴者、読者の間に右評価が広まっていたものと認めることができる。

2 そこで、本件警告カの内容等について検討するのに、前記認定事実に証拠によれば、右内容は被告講談社が九月二日朝から同被告の業務の麻痺を企図した組織的業務妨害行為を間断なく受けていること、右各抗議行動は重大な業務妨害行動にほかならないことを指摘し、右違法行為を指揮する原告幸福の科学の指導者である原告大川にその中止を要請するとともに、法的手段に出ることを警告するものであることが認められる。

なお、右警告文により、それを知った一般読者は本件各抗議行動を原告大川の指示を受けた原告幸福の科学の組織的行動であるとの印象を受けたであろうことは否定できないところである。

3 以上を踏まえて、本件警告文掲示行為が原告大川に対する名誉毀損行為として不法行為を構成するものかどうかについて検討するのに、前記認定のとおり、本件各抗議行動により被告講談社は甚大な業務妨害を被り、事態の収拾とともに、本来の業務の遂行に社を挙げて厖大な労力を投ずることを余儀なくされていたのであり、かかる状況にあって、増大激化の様相を呈する会員らの実力行使に対する窮余の対抗策として本件警告文を掲示したことは相当な措置であり、何ら違法と評価すべき点はないというべきである。

加えて、本件警告文が原告大川の社会的評価を低下するものか否かについてみても、前記乙事件における認定及び本件警告文の内容を併せ考察すれば、本件各抗議行動により業務妨害を間断なく継続する原告幸福の科学の会員らの行為に対し右行動が違法行為であることを告げ、被告講談社が右のような抗議行動に屈するものではないことを表明するとともに、右行動を継続するならば原告らの法的責任問題を追及する意思があることを明らかにして右行為の中止を求めるものであり、その内容は原告幸福の科学の会員らが行った行動を事実として掲示して右行為が偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪に該当する行為であるという法的評価を述べたものにすぎず、当時の状況下における原告大川に対する社会的評価を格別減殺するものではないというべきである。

4 したがって、原告大川の請求は、その余について判断するまでもなく理由がないことが明らかであり、失当というべきである。

五  以上のとおりであり、甲事件に係る原告幸福の科学の、丙及び丁事件に係る原告大川の各請求はいずれも理由がないことが明らかであるからこれを棄却することとし、乙事件に係る被告講談社の請求は右に認められる限度で理由があるが、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤村 啓 裁判官 高橋光雄 裁判官 堀内靖子)

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